ドイツワイン王子 山野高弘さんと歩くドイツワインの世界

フリードリッヒ・ベッカー

甘口ワインの印象が未だに根強いドイツワインですが、実際には赤・白を問わず多種多様なワインが数多く生み出されている世界でも有数のワイン産地です。冷涼な地域から生み出されるワインは伸びやかな酸が心地よく、キレがあり、どこかブルゴーニュワインを彷彿とさせる繊細で優雅な味わいは多くのワインラバーをから愛されています。

当連載は、そんなドイツワインの魅力をヘレンベルガー・ホーフ社の山野高弘さんと一緒に掘り下げていく特別企画です。注目を集める生産者に焦点を当て、その魅力をお伝えしていきます。

第1回目はきつねのエチケットで有名なフリードリッヒ・ベッカー。甘口ワインが主力であった1970年代に、新たなドイツワインの可能性を造り上げたパイオニアを掘り下げていきましょう。

ベッカー醸造所とは

Becker Brewery

ベッカー醸造所があるのは南ドイツ・ファルツ地方。フランス・アルザス地方との国境にあるドイツで2番目に大きな産地です。この造り手さんの最もユニークな点は畑をフランス領に7割、ドイツ領に3割所有していることです。醸造所のシュバイゲン村は、住宅地はドイツ領なのですが、畑のほとんどが第二次大戦後にフランス領となってしまったためです。戦後10年をかけた交渉の中で、協定が結ばれ、仏領で収穫したブドウであってもドイツで醸造すればドイツワインになるという非常に珍しい、2国間の複雑な歴史を色濃く反映した村となっています。

中世にはピノ・ノワールやリースリングの産地として名声を誇っていた村でしたが、戦後はジルヴァーナーやポルトギーザーといった安価で収穫時期の早いぶどうの植え替えられてしまい、南ファルツの名声は衰退の一途をたどっていきました。

醸造所を興したベッカー・シニアさんは17歳の時にブルゴーニュを訪れ、エレガントなピノ・ノワールを造ることを決意しました。共同組合の跡取り息子であるにも関わらず独立を志した若き日のベッカーさん。相当な反対を押し切っての船出でした。今では笑って「その当時にピノをシュヴァイゲン村で造るなんて自殺行為、ハラキリだ」と言って笑っていました。

ワイン業界では無名な村となっていた1967年当時、実際にピノ・ノワールを植えてはみたものの本当に理解されずに苦労の連続でした。結局は他の葡萄品種も造りつつ、隣の畑を手伝ったり、家畜を飼ったり、野菜を育てたり。誹謗中傷にもめげずに家族を養っていたそうです。

象徴的な、きつねのエチケット

Symbolic Etiquette

醸造所設立当初の1970年代は周りの生産者はほとんどが輸出市場用の甘口ワインを造っている中、ピノ・ノワールは果実味もありますが、酸もしっかりと残るぶどうです。「食べても酸っぱいし、飲んでも酸っぱい」ベッカーさんのワインは他とのあまりの違いに当初は受け入れられることはありませんでした。そんな苦労話をイソップ童話の「すっぱいぶどうときつねの話」のエチケットで表現しています。おなかをすかせたきつねがぶどうを取ろうとするのですが、背が届きません。負け惜しみに「このぶどうはどうせすっぱいに決まっている!」と言って立ち去るシーンが描かれています。

造り手の想い

Thoughts of the winery

苦難を共に乗り越えた戦友のようなワイン

設立当初、苦難のベッカー家の家計を支えたのが1Lのシルヴァーナーでした。このワインを知り合いや友達に売り、隣の畑を手伝うなどして生まれた子供たちを養っていたそうです。このワインは、彼にとってはその時からの戦友のような存在。ベッカーさんが、白ワインを飲んでいる時にはこのワインであることがほとんどです。その時の感謝の意を込めてこの品種では珍しく当時の古木も大事に使用されています。

幅広いラインナップに手抜きなし

「安価なワインから最高級のワインまで、すべてにおいてワイナリーの名前がついているのだから手抜きはしない。」ベッカーさんのところはその通りで、醸造工程においては特に大きな変化はそれぞれの価格帯のワインでありません。大事なのは畑です。例えばドッペルシュトゥック シュペートブルグンダーにはドイツ、フランス両方の畑の者が使われていますが、比較的緩やかな斜面で育ったものが使用されています。急斜面ほど水はけがいいわけではないので、顆粒は水分を良く含み、瑞々しい味わいとなります。熟成も大樽熟成(ドッペルシュトゥックとは2400Lの木樽のこと)なのでピノ本来のチャーミングな果実味も楽しめます。

醸造所設立は1973年ですが、本当に世間に認められたのはドイツのワイン雑誌Vinumにおいて最優秀赤ワインに1991年ヴィンテージが選ばれた時のことでした。実に設立後18年を要しています。さらにはドイツのワインガイドゴーミヨにおいても8回にわたって赤ワインの最優秀醸造家に選ばれるなど、彼のエレガントなピノ・ノワールは今や世界市場に知れ渡る存在となりました。

畑ごとの違いを表す名手

ベッカーさんはシュヴァイゲン村を中心に複数の優良区画を所有しています。

シュタインヴィンガートはこちらの方言で岩だらけの畑のこと。文字通り石灰岩土壌で覆われたやせた土壌です。しかも森に面した標高の高いところに畑は位置しており寒暖差もすごいことから非常に繊細ながらも芯のしっかりとしたピノ・ノワールとなっています。

山野高弘さんおすすめワイン

Recommended by Yamano

グビグビ飲みたい1?白ワイン気付いた時には1本空いているかもしれません!

SILVANER TROCKEN 1000ML 2021 FRIEDRICH BECKER

シルヴァーナー トロッケン 1000ml 2021 フリードリッヒ・ベッカー

ドイツで一番権威のある ワインガイド 「ゴーミヨ」 にて、2001年から2009年ヴィンテージまで8年間連続で最優秀赤ワイン賞を受賞し、「ドイツのDRC」と評されるほどの高い評価を受ける最高峰の蔵元フリードリッヒ・ベッカー。その評価と人気の高さは国内に留まらず、世界中でその名声をほしいままにしています。ファルツでは珍しいシルヴァーナーの古木でを育まれたブドウを用い、ステンレスタンクと一部を大樽で熟成させたものを瓶詰した1リットルのこのワインは、蔵元設立当初の苦難時代に知り合いや友達に売って家計を支えていた蔵元の思い入れが詰まった1本。ライチやマスカット、グレープフルーツやレモンなど、様々なフルーツのニュアンスが重なる清々しいアロマが感じられ、熟度の高さと瑞々しさを兼ね備えた柑橘の香味が、ほのかな塩気と繊細な酸味と折り重なって優雅に心地よく広がります。尖ったところは全くなく、全体的に丸みのある落ち着いた印象を感じさせる仕上がりで、スルスルと飲み進めることの出来る飲み口の良さと、上品な爽やかさが魅力の1本と言えるでしょう。

会員価格 2,613円(税込)

希望小売価格 3,080円(税込)

生産国ドイツ / ファルツ
ワインタイプ白ワイン
ぶどう品種シルヴァーナー
生産者フリードリッヒ・ベッカー

滋味深さとクリアーさを感じるベッカー渾身の白!

KALKMERGEL GRAUERBURGUNDER 2020 FRIEDRICH BECKER

カルクメルゲル グラウアーブルグンダー 2020 フリードリッヒ・ベッカー

カルクメルゲルとは石灰泥灰岩のこと。粒子の細かい泥と石灰質が混ざり合ってできた比較的重めの土壌。グラウアーブルグンダー(=ピノ・グリ)はある程度保水性のある畑を好み、あの豊かな果実味の源となります。昔は畑にてある程度果房を破砕したのちに醸造所へ運んでいたものですから褐色の果皮を持つグラウアーブルグンダーの色合いがワインにも移っていたそうです。こういうワインを作りたい!と提案し実際に作ったのは息子であるフリッツくんでした。「こんな色のワインが売れるわけはない!」とお父さんは大反対だったそうですが、その年で一番最初に売り切れた白ワインとなったそうです。いつだって時代を切り開くのは楽天的な若者ですね。

会員価格 4,494円(税込)

希望小売価格 4,730円(税込)

生産国ドイツ / ファルツ
ワインタイプ白ワイン
ぶどう品種グラウアーブルグンダー
生産者フリードリッヒ・ベッカー

ブルゴーニュの特級に勝るとも劣らないベッカーの極上シャルドネ

CHARDONNAY MINERAL 2018 FRIEDRICH BECKER

シャルドネ ミネラル 2018 フリードリッヒ・ベッカー

1990年まではドイツワイン法上公式には認められていないような扱いのシャルドネですが、近年はその品質の高さから大きな注目を集めています。バーデン地方のフーバー醸造所、フランケン地方のフュルスト醸造所とならび、このベッカーさんのシャルドネは国内外で最高の評価を受けています。斜面の急な白い石灰岩で覆われた土壌に樹齢30年前後のシャルドネを植え、非常に低収量で収穫されています。225L入りの小樽を使用し、すべて新樽となっています。名前の通り、土壌の強烈なミネラル分を感じる味わいで、樽の風味と絶妙にマッチしています。

会員価格 10,450円(税込)

希望小売価格 11,000円(税込)

生産国ドイツ / ファルツ
ワインタイプ白ワイン
ぶどう品種シャルドネ
生産者フリードリッヒ・ベッカー

ドイツを代表するベッカーこのクラスの赤も流石の出来です!

DOPPELSTUCK SPATBURGUNDER 2019 FRIEDRICH BECKER

ドッペルシュトゥック シュペートブルグンダー 2019 フリードリッヒ・ベッカー

ドイツで一番権威のある ワインガイド 「ゴーミヨ」 にて、2001年から2009年ヴィンテージまで8年間連続で最優秀赤ワイン賞を受賞し、「ドイツのDRC」と評されるほどの高い評価を受ける最高峰の蔵元フリードリッヒ・ベッカー。その評価と人気の高さは国内に留まらず、世界中でその名声をほしいままにしています。このワインはドッペルシュトックと呼ばれる2400Lの大樽で熟成させたもので、ベッカーが手掛けるピノ・ノワールのシリーズでもっともライトでエレガントなタイプのもの。より軽やかだった昔のピノ・ノワールを懐かしむ声から生まれた原点回帰のワインです。ピノ・ノワールならではのチャーミングな果実味と柔らかな酸味が重なる、飲み口の良さが特徴です。このワイン、実は大樽2つ分のみしか生産されておらず、ホームページにも公開されていないもので、ベッカーさんと親しい間柄のお客さんだけ分けてもらえる秘密のキュヴェ。ファンならずとも味わっておいて損はないでしょう。

会員価格 3,658円(税込)

希望小売価格 3,850円(税込)

生産国ドイツ / ファルツ
ワインタイプ赤ワイン
ぶどう品種シュペートブルグンダー
生産者フリードリッヒ・ベッカー

7年熟成!ベッカーが誇る上級クラスの赤

STEINWINGERT PINOT NOIR 2016 FRIEDRICH BECKER

シュタインヴィンガード ピノ・ノワール 2016 フリードリッヒ・ベッカー

ドイツで一番権威のある ワインガイド 「ゴーミヨ」 にて、2001年から2009年ヴィンテージまで8年間連続で最優秀赤ワイン賞を受賞し、「ドイツのDRC」と評されるほどの高い評価を受ける最高峰の蔵元フリードリッヒ・ベッカー。その評価と人気の高さは国内に留まらず、世界中でその名声をほしいままにしています。「岩だらけの畑」を意味するシュタウィンヴィンガードは、その名の通り石灰岩土壌を有し、標高の高い南向き斜面に位置する区画。寒暖差が強く、繊細かつ芯のしっかりとした味わいのワインが生み出されます。2016年は7年の熟成を経て角が取れ、まさに今が飲み頃と言えるでしょう。

会員価格 10,450円(税込)

希望小売価格 12,100円(税込)

生産国ドイツ / ファルツ
ワインタイプ赤ワイン
ぶどう品種ピノ・ノワール
生産者フリードリッヒ・ベッカー

山野高弘さんがおすすめする、フリードリッヒ・ベッカー

本記事でご案内中のフリードリッヒ・ベッカーは、YEBISU WINEMART ONLINEでお取り扱いしております。
ご興味がございましたら是非お試しください。

山野高弘 ヘレンベルガー・ホーフ代表取締役

Yamano Takahiro

ワインインポーター ヘレンベルガー・ホーフ(株) 代表取締役社長。2001年より2年間ドイツ バーデンのベルンハルト・フーバー醸造所にて研修。主に畑作業に従事。2003年より1年間ドイツ ラインガウ地域のゲオルグ・ブロイヤー醸造所にて研修。醸造行程の全てをその手で行う一方、醸造所の営業マンとしてドイツのホテル等にてプレゼンテーション。ヨーロッパ滞在中にはドイツのほぼ全生産地を渡りあるき、見分を広める。ドイツ以外のフランス、イタリア等、西ヨーロッパのワイナリーも積極的に訪門。2004年より帰国。主に東京にてドイツワインの新しいイメージ普及のため、様々なシーンでセミナー等を行う。

世界最優秀ソムリエでM.o.W.であるマルクス・デル・モネゴ氏や 来日中のドイツ醸造家の通訳を務める。現在も年に3回ほどはドイツを中心にヨーロッパを訪れ、最新情報を入手。世界的には現在非常に人気のあるドイツワイン。その新しいスタイルとイメージをどんどん日本に紹介していきたい!!その一心で毎日活動しています。

2019年に「ドイツワイン通信講座」出版。
2020年3月よりYoutube「ドイツワイン最高!」を火曜日金曜日17時配信。
インスタグラムによる生産者とのライブ「ヘレンと飲めへん?ドキドキドイツナイト」も毎週土曜日20時に開催。WEBによるワイン情報の発信にも力を入れ、日本中をドイツワインの明るい情報でいっぱいにし、夢である「日本におけるドイツワインの再興」を成し遂げます。